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前回、私は産科医の過酷な勤務の実態と、それに伴って同医師の不足が全国で深刻化している問題を報告した。そこで今回は出産に関する新たな試みなどを紹介し、同問題の今後のあり方を探ってみる。 出産は病気ではないが、母子ともに常に危険と隣り合わせの状態であることには変わりがない。今でも全国で百十万の分娩件数のうち、年間六十−七十人が死亡しているという。この数字は交通事故による死亡率とほぼ同じである。医事訴訟件数も三割以上が産婦人科関連である。 この状況を打開し、ハイリスクな出産に対応できるようにするために、全国三十五都道府県に、五十一カ所の「総合周産期母子医療センター」が置かれ、そのネットワーク化が図られている。 また、厚生労働省も出産を地域全体でサポートする「周産期医療施設オープン病院化モデル事業」を始めている。〇五年度から三カ年計画で進め、態勢が整った東京都、岡山県、宮城県の三カ所で先行的に実施。残り五カ所でも準備が整いしだい実施するということである。 このモデル事業以外にも、さまざま取り組みがスタートしている。例えば検診は地域の産科診療所や医院で行い、普段かかっている医師の立ち会いのもと、中核病院の施設を使用して、出産や異常発生時に対応する「オープンシステム」を導入している病院も多い。 こうした医療機関の連携による効率的な施設運用などが、新たな可能性を切り開くものと期待している。 もうひとつ重要なことは、出産環境をいっそう充実させていくことだろう。 医師不足が指摘されている小児科、産婦人科には、実は女性医師が多い。特に若い医師の間で、その比率が上昇しており、今春、産婦人科に入る医師の七割が女性といわれている。 つまり、産科医の過重労働の解消とともに、彼女たちが結婚をし、出産を考えられる環境の整備も、これからの重要課題なのである。もちろん女医に限らず、すべての女性を対象にした出産支援策の強化が求められるのは言うまでもない。 職場内保育所があればという要望や、保育園と幼稚園の機能をもつ「認定こども園」が設けられる動きのなか、病院内での保育施設のあり方も考えていいのではないだろうか。さらに、結婚、出産などによる離職者のための医師および医療スタッフの人材バンクの整備も重要な検討課題である。 (フジサンケイビジネスアイ2006年5月25日付) |