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今月13日、脳死臓器移植の問題について、衆議院厚生労働委員会で参考人招致を行い、質疑を行った。脳死が人の死か否かは長年議論されてきたが、それぞれのもつ宗教観、死生観の違いにより決して一つの結論が出るものではない。だからこそ、どの時点で人の死と判断すべきか、国民への正確な情報提供が重要なのである。 脳死臓器移植に対しては2つの主張がある。臓器を「提供される側」の論理と、「提供する側」の論理である。先日の参考人招致では与党側の参考人の多くが、臓器を「提供される側」の立場に立ち、脳死を人の死と認める人たちであった。与党全体が脳死臓器移植推進という印象を与えかねない人選だったが、この議論については党議拘束がかからない上、与党内からも脳死を人の死と一律には認めない案が対案として出ているなど、慎重派の議員も多い。 慎重派の考え方は、今後の科学技術の進展を見据えたものでもある。臓器移植を代替医療にすぎないと考える科学者が多いことはご存じだろうか。ヒト幹細胞をもとに臓器を作り出す技術が発達すれば、患者の幹細胞を用いた再生医療が「献体」を要する臓器移植に取って代わると考えられているのだ。 脳死臓器移植に延命効果がないことを示唆する研究結果も存在する。限られた余命の間に海外渡航の費用を求めて東奔西走する親族の姿を、私たちは報道で目にする一方で、臓器移植を受けた人の予後については知らされていない。 「提供する側」の声は脳死臓器移植の議論から失われがちだ。しかし、私たちはいつ突発的な事故や病気のため脳死判定を受けるかもわからない。誰もが提供する側になりうるのだ。しかし、脳死と判定されてしまってからでは、意思表示ができない。だからこそ次のような事実を一般的に知らせる必要があると私は考える。 にわかには信じられないかもしれないが、脳死者は流暢に手足を動かしたり、目を開いたり、首を大きく動かしたりする運動を「自発的」に行う(これを「ラザロ兆候」という)。われわれが一般的に予想する「植物状態」とは大きく異なる。また、国内で脳死者から臓器を摘出する際にメスを入れたとたん血圧が大きく上昇し、麻酔医が麻酔を投与したという事実が多数ある。海外では、摘出の際は麻酔や筋弛緩剤の使用が常識となっている。脳死症例数の多い海外では、脳死女性患者が出産した例、脳死に近いとされた患者が「脳低温療法」を受けることにより趣味やけいこ事を楽しむまで回復した例などが報告されている。さらに脳死判定の際の無呼吸テストが、患者の生存に大きな負担を与える可能性も論じられている。 小松美彦氏の「脳死・臓器移植の本当の話」(PHP新書)から、以上のような事実を知った私は、「脳死になると、自発呼吸はなく、一切身動きせず、心臓はしばらくの間動き続けるものの、多くて数日長くとも数週間以内には停止する」という厚生労働省研究班監修の説明に大きな疑問を持った。 このような事実をできるだけ多くの人に知っていただきたいという思いで先日、東京海洋大学の小松美彦氏を講師に招いて勉強会を開いた。現行法の考え方を維持し、脳死は人の死ではないという慎重な立場から、今後の議論に参加していきたい。 (フジサンケイビジネスアイ 2006年12月21日付) |